心理学の世界ではストループ効果という有名な現象が知られています。1935年にストループさんによって発見された現象で、言語的な認知と視覚的な認知が干渉するというものです。
例えば、
緑
と書かれた文字を見て、この文字が何色かわかりますか?
おそらく、「緑」という単語の意味にひきずられて「赤」と答えるのに少し余計な時間がかかったと思います。
青
ならもっと早く答えられるでしょう。
仮に文字情報を意識的に無視せよと言われても、無意識に読んでしまうのでどうしても混乱が生じます。それではもし催眠を使って、無意識に言葉を理解することを妨げたらどうでしょう?言葉が理解できなければ、この競合がなくなり文字の色を判断する時間は短くなるはずです。
この仮説を証明するための実験結果が2005年に発表されています。
言語的な認知を抑える暗示として、以下のような後催眠暗示が催眠状態の被験者に対して与えられました
「モニタに現れる記号は知らない外国語の文字のように感じるでしょう。ですからあなたはそれらがどういう意味かを考えようともしないでしょう。このわけのわからない記号の色は、4つの色すなわち赤、青、緑、黄のうちのどれかです。あなたはこれらのシンボルのインクの色に注目することができます。あなたはごちゃごちゃしたこれらの記号を直視して、しっかりとこれら全てを見ることができます。あなたに与えられた課題は、素早く正確に、表示されたインクのカラーに対応するボタンを押すことです。あなたはこのゲームをたやすく、なんの苦労もなく行うことができるでしょう。」
実験結果は予想通りで、催眠暗示により被験者は単語にまどわされることなく、色に対して素早く反応できるようになりました。
これまでの研究から、このような2つの認知情報が競合するとき、前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ、Anterior cingulate cortex) (ACC)と呼ばれる脳の部位が活動的になっていることがfMRI(機能的核磁気共鳴画像法)によりわかっていました。今回の催眠により、ストループ効果が抑えられただけでなく、脳の部位ACCの活動性もなくなることがわかりました。
催眠術なんてウソで被験者が催眠に掛かっているふりをしているだけではないか、という疑う人も昔はいたと思います。今では催眠の効果を、脳の活動の変化として「視る」ことができます。
ストループ効果を体感するには、このビデオクリップを見てください。1回目の課題では、色の名前を言うのは簡単でしょう。2回目の課題ではどうでしょうか?
Test Yourself: Stroop Effect
http://www.youtube.com/watch?v=Tpge6c3Ic4g
英語ですが、ストループ効果を試してみたい人にはこんなウェブサイトもあります。
http://www.whatthefreek.com/stroop/
私は非催眠状態で、1回目43秒、2回目は44秒かかりました。誰かに単語の意味が理解できなくなる催眠をかけてもらって、本当に反応が早くなるか試してみたいものです。
参考論文
Amir Raz,Jin Fan, and Michael I. Posner. Hypnotic suggestion reduces conflict in the human brain. PNAS July 12, 2005 vol. 102 no. 28 9978-9983
http://www.pnas.org/content/102/28/9978
補足:ストループ効果へのACCの関与に関しては、異なる考え方もあります。
Ardi Roelofs,Miranda van Turennout,Michael G. H. Coles. Anterior cingulate cortex activity can be independent of response conflict in Stroop-like tasks. PNAS September 12, 2006 vol. 103 no. 37 13884-13889
http://www.pnas.org/content/103/37/13884
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